雪組『Once Upon a Time in America』

 宝塚大劇場及びムラ千秋楽LVにて観劇しました。


 新年最初の観劇で、良いものを見せてもらったな! って観劇後幸せな気持ちで帰れました。ツッコミどころもあるにはあるんですが、それをねじ伏せるだけのキャストの熱量&演出の妙でした。なんやかんや言っても小池修一郎先生は偉大……。


 おそらく原作の映画を観ていない方が素直に楽しめます。というか、結構原作とは別物(小池先生の解釈・改変が多い)っぽいのでワンスを拗らせた小池先生が作ったお金のかかった二次創作くらいの捉え方でみた方がいいのかも知れません。ポーの一族かな? 宝塚歌劇団に明日海りおと望海風斗が所属していた僥倖ですよ。主演が彼女達でなければ決して成立しなかったろうな~。


 そんなわけでまずは雪組の主要メンバーの並びが強かったです。

 こんなタキシードが似合う男役いる? 悪どさと純情のバランスが絶妙なヌードルス・望海風斗。恋と夢の狭間に揺れながら生き抜いたデボラ・真彩希帆。トップスターに並んでも負けない風格のあったマックス・彩風咲奈。男役芸の光る裏のラスボス(!)ジミー・彩凪翔。デボラとは真逆の色彩で舞台を飾ったキャロル・朝美絢。死角がない。

 もちろん、他の組子も充実しているように感じます。個人的にはデボラの幼馴染ということで美味しいポジションだった綾凰華が非常に目を引きました。出てくると安心しました。デボラはもうニックと付き合った方がよくない? 駄目なの? 絶対に幸せにしてくれるよニック……。愛人のベティもめちゃくちゃ腹立たしくて(笑)星南のぞみうまいな~! コックアイ&パッツィーの絡みも愛おしく、ドミニクも短い出番ながら可愛がられている感があって好きでした。彩海せら、PR×PRincの時に感じましたが逸材ですね……期待せざるを得ない……。


 演出面でも特にストレスなく観劇出来たのが有り難かったです。盆はぐるんぐるん回るし、展開のスピードや曲と場面の繋ぎ方がやっぱり上手い。その後に見たマスカレード・ホテルもいい作品でしたが演出面ではツッコミどころもあったので(歌が唐突すぎるよ!笑)、この辺のミュージカル演出の巧さは流石小池修一郎御大……とひれ伏しました。


 テンポよく幼少期→青年期→壮年期とお話が進むので一本ものでも長い感じはしませんでした。「そこで幕が下りるの?」的なツッコミも散見されましたが、私としてはこれはヌードルスとマックスの青春の物語だと思っているので、片方が欠けた時点で終わるのも当然かと思います。


 デボラはヌードルスを選ばなかったのに最後になぜマックスに寄り添ったのか? マックスにとってキャロルは所詮遊びだったのか? 何もかもを手放して夢の世界に生きるキャロルは幸せなのか? ヌードルスとマックスの友情の形の結末があれではあまりには凄惨ではないか? 色々なことを考えさせられる作品だと思います。感情移入する相手も人によって違うでしょうし、それがこの作品の面白さかなと。


 私としてはヌードルスの一途さに胸を打たれました。もうね、ほんとに、君はデボラが好きなんだね~~~!! ぶっちゃけヌードルスが大きな夢を描く度に同調しながらもデボラは若干不安な顔をしているので、好きならもっとちゃんとデボラの言っていることを聞いてあげなよ~と思います。デボラは何度も日の当たる道を、一度足を浸してから戻るのでは遅いと言っているのに、ヌードルスは耳を貸さないんですよね。そりゃまあ"そうせざるを得ない"立場なのも分かりますし、ヌードルスは皇后に仕える従者じゃなくて皇帝になりたかった少年なので、真っ当に地道に稼いで……なんてのは無理だったでしょう。

(これが従者になれるような器の小さい少年だったら共に生きる道があったのかな? でもデボラは同じ夢を見ている相手だからヌードルスを好きになったような気もしますね。最初から二人でショースターを目指せばよかったんじゃないかな……それだけお歌が上手いんだし……)

 言ってしまえばデボラは夢と恋を天秤にかけて後者を切り捨てることが出来る人間だったのに、ヌードルスは両方を得ようとしていたんですよね。二兎追う者は一兎も得ず。結果としてヌードルスはデボラも摩天楼の頂点に立つ道も失いました。デボラは一瞬だけでも確かな栄光を掴んだのだから、彼女の選んだ道は間違ってなかったと思います。というか、いくら好きだっていっても、未遂だろうが襲おうとしてきた男はナシでしょ~!笑 この点でマックスを選んだのは理解が及びます。だってマックスはデボラにちゃんと"話して"くれたんですから。ろくに話さず勝手に話を進めたり一方的に唇を奪うばかりのヌードルスとは違って……(初恋で暴走しがちなヌードルスくん好きだよ)(望海さんのショタの演技が可愛すぎて転がりました)


 デボラも素敵な女性でした。真彩さんはビジュアルを武器に駆け上がってきた娘役さんではない……と勝手に思ってましたが、とんでもない。冒頭のバレエのレッスンのシーン。ひとりすっっっっごく可愛い子がいるな~って見たら真彩さんでした。美しかったです。身体から何か光が放たれているような……紛れもないスターの輝きでした。お衣装もどれも素敵だったのでル・サンクが楽しみですね。


 スタイルがいいとはよくよく知っていましたが、でも舞台上で見る彩風さんのスタイルの良さは本当に凄かったです。立ち姿がまず格好いい。男役としてめちゃくちゃ大事。彩風さんはどうにも別箱の主演作に恵まれないのが辛いところな気がしましたが、ここでマックスという当たり役に会えてよかったな~って思います。歌もだいきほのレベルが凄すぎるだけであれだけ歌えてたら十分じゃない……? と感じてしまう私は花担(disってないよ)


 マックスを一途に想い続けたキャロルの健気さも好きでした。野心家のマックスと小さな幸福で満足できるキャロル。正反対のタイプでも、マックスからキャロルへの情は確かにあったと思います。いや~~~銀橋でキャロルを打ってからキスする流れ、控えめに言ってクソ野郎の所業なのにめちゃくちゃときめきました……。心底キャロルにも幸せになって欲しかったんですが、彼女が後悔しないと歌った以上、あの道程と結末もバッドエンドではない……と信じたいです。それにしたってサナトリウムでの朝美絢の演技が凄い。どうしてもビジュアルばかりが取り上げられがちですが、歌・ダンス・芝居もしっかり毎公演ごとに成長しているので、そのままスターダムを駆け上って欲しいな……。


 ジミーも出番はそんなに多くはない中、しっかり存在感を見せつけてくれたなぁと。なんと言っても黒幕でしたし。彩凪さんもめちゃくちゃ格好いいですよね~~!! フィナーレ冒頭の彩凪・朝美の並びは眼福でした。雪組男役強い……強くない……?


 ギャング映画を元にしたと言ってもそこまで残虐な描写もなく宝塚の枠を守っていて、スターは贅沢なくらい揃っているし、ミュージカル・舞台作品としても見やすい。ひかりふる路やファントムという代表作にワンスも加わるのでしょう。とてもいい作品でした! 東宝でも観劇予定なので見るのが楽しみです。



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